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北海道釧路市に、お菓子屋さんを作るプロジェクト。
2018年にオフィスを設計させていただいたAMAYADORIさんからお声がけいただき、mangekyoはインテリアデザインを担当しました。
釧路市は霧の発生率が日本一といわれ、「霧の街」とよばれている。店名の「jiri(ジリ)」は、海から発生した粒が大きな霧を指す、釧路特有の言葉だそう。海から発生した霧を吸った根釧地区の牧草を食べている牛のおいしいミルクを使った生クリームのお菓子の店。
霧のように白く、淡い口溶けのお菓子を、より強く印象付けるインテリアを目指したいと考えた。
立地は、釧路駅と観光名所のひとつである幣舞橋を繋ぐ通りに面した路面店。少し寂しくなってしまったこの通りに、遠方から訪れる人たちにとっては見にいきたい風景となり、地元の人たちにとっては日常に自然と溶け込むような、街のあたらしい風景になり得る店を作りたいと思った。
見た人が、記憶や想像の中にある「霧」を想起する抽象的な表現がしたいと考え、細かい水滴の集合体である霧に対し、木材の小片で成型されたOSBを数種類の白で塗装し、メインマテリアルに採用した。輪郭がぼやけ、霧っぽい表現ができたように思う。誰もが一度は見たことがある建材を使うことで親しみやすい空間になるのでは、という考えもあった。家具のデザインは621に協力していただいた。
Worksのページに竣工写真をアップしました。ぜひご覧ください。
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札幌市内中心部のセレクトショップの店内に、約5坪の眼鏡店を設計するプロジェクト。
長年眼鏡業界の第一線で活躍されてきた店主が今回新たに立ち上げたのは、北海道内にこれまでなかった、マニアックな品揃えの眼鏡店だ。
眼鏡と建築に共通する、フレーム(=骨格 / 構造 / 枠)というキーワードから考えた。
眼鏡は、フレーム(枠)の形状が「眼鏡」そのものを表していると言える。一方、建築のフレーム(構造)は、その上から仕上げが施され内側に隠れている状態が一般的であるが、工事途中の構造現しの状態は、軽快で美しい。眼鏡と建築、それぞれにおけるフレームの在り方から着想し、日頃から興味があった工事途中のような空間を作りたいと考えた。木造建築に用いられる柱材で空間を構成した。壁面と什器にはMDFを採用し、仕上がっているような未完成のような、曖昧な状態とした。商品陳列棚の受け金物は、クロメートメッキの特注品である。このような仕上げを選定した理由は、モノトーンで構成されたセレクトショップとの境界を明確にし、独立した店舗であることを示す意図もある。
ワンアイテムに特化した専門店では、商品を整然と陳列することで、空間に秩序をもたせることができるが、インテリアの構造やマテリアルを限定することで、それをさらに強調することができたのではないだろうか。
店名であり社名でもある「SCHIETTO」には、純粋な/ありのままの/素朴な、という意味がある。店主が大切に掲げる言葉に寄り添わせてもらい、純粋に作ってみたいと考えていた素の状態の空間を素直に目指してデザインできたと思う。
Worksのページに竣工写真をアップしました。ぜひご覧ください。
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6月29日は桑原崇の誕生日。
最近では、桑原さんのことを全く知らない人に出会うことも多くなった。今年の春から入社したスタッフもその1人だ。さびしいことではあるけれど、月日が流れていく中でそれは自然なことなのだろう。
mangekyoは桑原さんが作った設計事務所だ。彼は5年前、40歳と1ヶ月ほどでこの世を去った。生きていれば今日45歳を迎えたはずだった。いつも私のずっと先を行き、後ろ姿と横顔ばかり覚えている。私は今年、ついに彼が亡くなった時の年齢に追いついてしまった。どんな時でも頼りになった桑原さんより私の方が年上になっていくなんて、少し心細いような不思議な感覚だ。
通夜の夜、葬儀場の駐車場のはじっこで1人、私がmangekyoを継続していくことを決めた。mangekyoを、過去の設計事務所にしたくなかったからだ。まずは5年やってみよう。それでだめならその時また考えようと思った。
あれからもうすぐ5年。桑原さんの誕生日である今日、札幌市内のプロジェクトが着工した。勝手だけど、「これからもがんばれよ」と言ってくれているのだと、都合よく前向きに受け取っている。(本人は絶対そんな感じでは言わない)
ひさしぶりに喋りたいなー。最近考えていることとか、おもしろかったこととか、傷ついたこととか、いろいろ。
でもそれよりなにより、今日勃発した仕事のトラブルをどうしたらよいかまずは相談したい。めちゃくちゃ怒られそう。
Happy Birthday.
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インテリアデザインを担当した「炉端 酒 勿ノ論」。
既存の炉端焼き店によく見受けられる要素を寄せ集めた店になることは避けたかった。リサーチのために訪れた釧路や札幌の炉端焼きの名店での自分自身の体験を咀嚼し、アップデートしたいと考えた。チープではない気安さや、心が静かに落ち着いていくあの感覚はどこから来るのか。その答えは、「姿勢」と「仄暗さ」にあると思った。
炭焼き台を囲むコの字カウンターとテーブル席のベンチは、座面を低く、奥行きは浅くした。背もたれがないので、座ると自ずと天板に肘をつく姿勢をとることになる。体を少しだけ縮めるこの姿勢は、物理的にも精神的にも人との距離が近づく。(この考えは、2019年に発表したスツール「form」に通じている。)座面はい草ロープを巻いて仕上げた。これは釧路の名店の座面が畳だったことから着想したもので、寸法も参考にしている。
天井の基礎照明を極力減らし、頭上から落ちる光を最小限にした。手吹きガラスの特注スタンドライトによってほんのり照らし出される手元周辺に意識が向かうことで、間仕切りのない親密な空間が生まれた。
カウンターとテーブルの天板は、製材の際に生じるノコ目を残した状態を仕上げとした。仄暗い空間の僅かな光を受けて浮かび上がる表情と、視覚からの情報が制限された中だからこそ感じ取ることができる繊細な手触りを表現した。
カウンターとテーブル、い草のベンチは621によるデザイン・製作。
炉端リサーチのため、真冬の釧路まで同行してくれた。いつもありがたいです。
特注スタンドライトは、今回久しぶりにご一緒することが出来てうれしい、イリスによる制作。
ギリギリまで根気よく細部を詰めてくださいました。
グラフィックデザインはCOMMUNEです。
竣工写真に記録することができなかった、紺屋 纏祝堂による藍染の暖簾や座布団は、改めて撮影したいと思う。
WORKSのページに写真をアップしましたので、ぜひご覧ください。
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先代の社長(当時30歳)が作成した会社のマニュアルをドロップボックス深層から発掘した。
私がmangekyoに参加する際に作られたもので、会社の目標や仕事の進め方、日々の心構えなどが記されている。
「各スタッフが最良だと思う方法で、進め方は自由。」
「会社内で賄えないもの又は良いものが作れない場合は、積極的に外部に委託する。」
「自分がやりたい仕事を採るために会社営業費を使う。プロジェクトの一つと見なす。」
「自分がやらなくても良い仕事を断る勇気を持つ。」
「生き方がデザインに出る為、面白く生きる。」
「仕事はきちんとやるが、頑張らない。」
「仕事がつまらないと感じたら、相談する。」
などなど。この他にも、かなり強気な項目が並んでいる。
無意識のうちに根付いて、私の考え方や重要な物事を決断する時の基礎となっているものもあるし、
おい もっとしっかりしろよ と言われているような気がしてビクッとするものもある。
ファイルの枠外に、
「デザインとは、」
からはじまる一文が残されていた。これは私の中に留めておくことにする。